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シュバルツバルトな毎日

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2009年 01月 29日

リストラの現場(2)

出勤の時にときどき一緒になる関係で、最近になって少し話すようになったおじさん(Lさん)がリストラのせいで解雇されます。ここの会社に勤めて39年。10代後半からずーとここで働いているというから、彼の人生はいつもこの会社と共にあった、と言えるでしょう。1年ちょっとしか働いていない僕には想像も出来ないくらいの、寂しさというか空虚感が彼にはあるはず。

彼は、腕時計のケースの試作品を手作業でつくりする専門家で、はっきりいってスーパーマンです。そして、試作する専門家はこの会社で彼ただ一人のはずです。本当は会社としては彼を雇っておきたかったんじゃないかと思うんですが、(僕を採用してくれた)新しい社長が来てから、その社長が立ち上げる(僕の関わっている)プロジェクトには、協力しないと明言していて、それで、今回のような事態になりました。単純に考えると「プロジェクトに協力しない」なんて依怙地を張るほうがバカだと思うでしょうが、僕はそう思わないんです。彼はほとんど40年間会社のために働いて、それなりに彼のやり方や価値観があるはず。そんなところへ、若い社長が上から降ってきて、いろいろ会社の中をかき回すのをみて、自分の身の引き時を感じたのかもしれない。この会社のこともよく知らない若い社長が突然「右向けー、右!」と号令したところで、おいそれとは右を向きたくない。彼も職人ですからね、こだわりがあるはず、人生の生き方にも。

一方でDさんのことも書きたい。
Dさんも勤労およそ40年です。旋盤仕事、フライス仕事、あらゆる「製作」を担当しています。ともかく優秀で、彼の作るものはいつも完璧です。そしてもっとすごいことは、彼はもう50歳後半で、頭が固いはずなのに、去年初めて導入したコンピータ制御の機械を、たった数ヶ月間でもう使いこなしていることです。これには、ほかの同僚の間でも、本当にすごい人だということになっています。この人、ともかくまじめで、おしゃべりすることなく、働き続けています。そして、自分の無駄な話(例えば、昔はこういう風に加工したとかいう年寄りにありがちな古き良き時代の話とか、自分の勘違いの内容を延々と説明したりとか)はほとんど言わないで、相手の話を黙って聞ける、ドイツ人にしては珍しい人です。

このDさんは解雇されません。というか、Dさんは「絶対に手放したくない従業員リスト」のトップにくるでしょう、社長を差し置いても。彼を見ていると、周りの環境や価値観がどう変わろうと、ひたすら、物と向き合って完璧なものつくりに専念する、そういう姿勢を強く感じます。そして、そういう風に働いて、歳をとれば、歳に関係なく、必要とされる人材になれるんだなぁ、といま、リストラの嵐が吹き荒れる仕事場で、つくづくそう思います。

by furtwangen | 2009-01-29 07:30 | 黒い森の小さな町


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