シュバルツバルトな毎日

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2009年 03月 08日

職業訓練2

昨日は久しぶりにStuttgartへ行ってきました。お目当ては蚤の市で、機械式の腕時計を見ること、出来れば買うこと。これについてはまた後で書こうかな。

前回の職訓の話で、VollzeitschuleとTeilzeitschuleの話。

僕は時計職人養成に限って言えば、Vollzeitschuleの方がいいと思う。
まずいくつか断っておくこと、

1.僕は理論も実技もひとつの学校で学ぶVollzeitschuleで養成されました。だからTeilzeitschuleでの経験はありません。Teilzeitについては今の会社にいる2人のアツビを見て思いをめぐらせるだけです。

2.会社での実技訓練といっても会社によって千差万別でしょう。実践の最前線で働かされることもあるかもしれないし、ほとんど学校と変わりない状態の会社もあるかもしれない。

以上2つを踏まえて僕の経験からいうと、まず、職業訓練生には彼らを養成するプロが必要であるということ。職訓を始める年齢は17、18歳くらいが普通で、こちらのGymnasiumの生徒さんや日本の大学受験を控えた生徒さんのように、あるひとつの難関に向かって自らを切磋琢磨した経験がほとんどないような人たち。つまり何か難しい、厄介な問題が目の前に現れても、自分で考え、解決する能力というか気力のない人が多い。体が疲れていて、もう駄目っぽいときでも「もうちょっとがんばれ!」って自分にムチ打てる人が少ない。すぐに「駄目だー!」っと言って放り投げちゃう。

そういう人たちに会社で実践経験の機会が与えられるわけがない。ネジの締め方、油の差し方を知らない人に、実践もなにもない。先ずは、その締め方、油の適量などの基本技術を覚えてもらわないと。ちょうど学校で習うように。つまり会社での実務経験と、それが本当に実践的であったかは別問題。

そういう若い彼らに必要なのは実践の場ではなくて、養成のプロに出会うこと。実践の場は、3年後に時計学校が終ってから始めても少しも遅すぎない。
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昨日の帰りの電車

例えば、時計技術の養成過程では、必ずテンプ軸の削りだしを練習します。これは旋盤を使った手作業で、こんにちの時計製造の実際を考えると、まったく非現実的で、非効率的な作業です。(修理の場合は今でもありえます。)だから実践至上主義の人なら、こんな手作業はしない方がいいと思うでしょう。それよりこの軸を削りだすNC旋盤のプログラミング方法を覚えたほうが数万倍「実践的」です。

しかし、それでもこの非効率的な旋盤作業を実習します。なぜなら、この作業を通して、例えば直径0.1mmのレベルの軸を削りだすことがどれほど際どく厄介なのかとか、直径が百分の1mm大きすぎる嵌めあいがどのくらいきつ過ぎちゃうものなのか、それからこの軸って小さいくせに案外複雑な形状をしていまして、この実習を通して、その複雑な形状が頭に叩き込まれるわけです。こういう経験が、将来のものつくりや時計修理の際に役立つわけ。

しかし、こういう経験は企業、会社でないと出来ないのか。別に会社でなくとも学校でも何の差し支えもないはずです。別にアツビが削りだした軸を会社が製品として使うわけではないんですから。

僕の学んだフルトワンゲンの時計学校には学年ごとに先生が固定されておりまして、テンプの軸削りだしを学ぶ3学年の先生は、毎年3年生を担当しています。そうなると、子供たちがどの作業で、どんな困難に出くわすか十分に知り尽くしている。そしてそのために、作業場での教授法がどんどん改善されていく。Ausbilder教官のプロになって行くわけです。

僕の通った時計学校は国立だったからか、質の高い工具が本当によく揃っていた。それに比べて、会社のアツビが使える工具は質・量ともに見劣りする。それからクラウディオが彼らの教官となって養成をしていますが、これは彼にとってあくまで副業で、彼は彼らの作業場にいないことが多々ある。だから、彼らアツビはクラウディオのことをよく探しています。「クラウディオどこですか?」って。あの探している時間って本当に無駄。そういう無駄こそが「実践」といえるのかもしれませんが、あんなこと学校ではありえないです。

「実践」というのは聞こえはいいですが、それはあくまでも「基本」がちゃんと出来ていて初めて意味を持つ。皆さんも何度か見たことがあると思いますが、よく外人局などのお役所に行くと、Praktikanten実習生、研修生と思われる若い人がコンピータの前で暇そうに座っていることがあります。こっちは長蛇の列で並んでいるというのに、ぜんぜん窓口に出てこない。たぶん彼らには事務処理を行う基本的な知識がないんでしょう。職種によってはそんな時間を過ごしていても「いい経験」になるのかもしれませんが、時計職人養成の場合はたった3年間でかなりの量の技術を学ばなければいけないのですから、養成のプロが専属にいて、基本技術を集中して学べるVollzeitschuleのほうが良いというのが僕の意見です。

0309:まさみさん
コメントありがとう。マイナーなテーマで誰もコメントくれないかと思った(笑)。
確かに学校だけだとマンネリ化するかもしれませんね。ただ会社でも、アツビに失敗が許されないようなことは頼みませんからね、彼らを見ていてもあんまり緊張感はないです。学校だと実技しながら、「ここが難しい」とか「こうやるとうまく行く」というような今取り組んでいる課題、問題を共有する仲間が多い。今の会社はたった2人だけですからね、課題の問題を共有する仲間が少なすぎるような気がします。それから、夕方からの自主的な作業とかいうのも学校だからできるのだと思います。社員のいなくなった会社で夕方からアツビだけが働くということは事実上無理です。
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by furtwangen | 2009-03-08 22:10 | 黒い森の小さな町


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