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シュバルツバルトな毎日

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2006年 10月 28日

工具のドイツ語3

さて、明日から一週間の秋休みが始まります。図面を描いたりやることたくさんでありますので、気を緩めず着実にこなしていかないといけません。でも、今晩は気分転換に、このブログにちょっと多めに時間を割きます。

工具のドイツ語の3回目。
今日は長さの測定器、ノギスを取り上げます。

工具のドイツ語3_a0207111_4583447.jpg

これが、典型的なノギスです。普通10cmくらいまでの長さのものをふたつのクチバシに挟んで5/100mmや2/100mmの正確さで計るための測定器です。これをドイツ語で、SchieblehreとかMessschieberと呼びますが、今は後者が正しい呼び方とされています。では、なぜ前者のSchieblehreという呼び方は適切ではないのでしょう。それはLehreという言葉に原因があります。ノギスは対象物の長さを計測するために一つのクチバシが「動き」ますが、Lehreと呼ばれるものは一般的には動く部分を持っていません。ではLehreと呼ばれる測定器にはどんなものがあるでしょう。たとえば、一番身近にあるものとしては直角定規がありますね。

工具のドイツ語3_a0207111_502118.jpg

直角定規Winkel。文房具屋で見ると、直角定規には目盛りがついているものだ、と思わされてしまいますが、直角定規についている長さや角度の目盛りは、付帯的なサービスであって、なくてもいいのです。直角定規にとって一番大事なことは、一つの角度が正確に「直角」であることです。自分のある角度がほかの誰にも負けないくらい正確な「直角」があること。したがって、どこにも動く部分がありません。

工具のドイツ語3_a0207111_51175.jpg

これは、Lineal日本語に直せば定規。でもさっきと同じで目盛りなしです。ですので長さは測れませんが、こいつの取り得は自分の体の一部にめちゃくちゃ真っ直ぐな辺を持っているということです。これをあてがう事で対象物のある平面が平らか否かを知ることが出来ます。そんな訳でこの測定器も動く部分がありません。

工具のドイツ語3_a0207111_4595197.jpg

これはブロックゲージ(そう、ゲージという言葉こそLehreの訳語として相応しい)ドイツ語でEndmass。こいつはただの直方体で、木偶の坊のようですが、こいつの図体の幅が物凄く正確なのです。例えば10と書いてあるブロックゲージは幅がきっかり10mmなのです。どのくらいきっかりかというと、その幅は9.9994以上10.0006mm以下で作られています(ドイツ工業規格の最高品質00の場合)。これを使えば例えば、ノギスの検査ができます。そして、写真を見ていただければ分かりますが、動くところはぜんぜんありません。

工具のドイツ語3_a0207111_525339.jpg

これはGranzlehrdornと言うらしいです。日本語では限界ゲージというかなぁ?「穴」の大きさを検査するものです。このゲージも動くところがありません。

というわけで、Lehreと呼ばれる測定器の特徴は(例外はあるかもしれませんが)
1.動く部分がない。
2.目盛りや指針を必要としない。
ということです。ですので、ノギスという測定器にLehreという言葉を使うのは本当は不適切なのです。

さて、ノギスにまつわるもう一つの話。
そもそもノギスという言葉は、人の名前に由来してます。Pedro Nunesというポルトガル人に由来するそうで、そのラテン名Noniusが訛ったと広辞苑には書いてあります。ところで、ドイツ語でNoniusとは何を指すでしょう。それはノギスの副尺を意味します。

工具のドイツ語3_a0207111_534279.jpg

中央にある尺が本尺、その下に小さく書かれた目盛りが副尺、これをドイツ語でNoniusといいます。詳しくは書きませんが、ノギスで長さを正確に測れる秘密は、この副尺の目盛りが本尺の目盛りと僅かに違って刻まれているところにあります。こちらの百科辞書Der Brockhausによると、このすばらしい(デジタル技術を使わずに2/100mmの精度で長さを計測できるなんて本当にすごい!)仕組みを発明した人はNoniusさんではなく、Pierre Vernierさんという方で、Noniusさんの死後1631年に発明したそうです。そして、機械の好きな人はここでハッと思うのです。日本語で副尺のことをバーニヤ(Vernier)目盛りと呼ぶことがあるということを。

1028追記:
H.Suto様
上の記事を書いていて確かに思いました。どうやって副尺の目盛りを書いたのだろうと。
子供の頃、家にあった竹の定規にも確か検定印がありました。竹の定規に使われる10cmおき(だったか)の丸っぽい印は、子供ながらに面白い印だなぁと思ったの覚えています。

1029追記:
H.Suto様
本尺9mmを10等分する副尺(副尺一目盛り0.90mm)で測定精度が10/100mm
本尺19mmを20等分する副尺(副尺一目盛り0.95mm)で測定精度が5/100mm
本尺49mmを50等分する副尺(副尺一目盛り0.98mm)で測定精度が2/100mm
人の手で出来るのは0.9mm目盛りが限界でしょうね。
学校には測定精度2/100mmの副尺を持ったトースカンHoehenanreissgeraetがあります。
ちなみに僕がいつも使っているノギスは、精度2/100mmでは細かい仕事が出来ないので、(バーニヤさんには申し訳ないですが)副尺でなく、ラック(平板歯)とピニオン(小歯車)の機構を使ったものを使っています。

工具のドイツ語3_a0207111_542377.jpg

これを使えば1/100mm単位で長さを測れます。ドイツ語でUhrmessschieberといいます。

by furtwangen | 2006-10-28 08:34 | マイスター学校@Schwenningen


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